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東京高等裁判所 昭和43年(う)1066号 判決 1968年9月05日

主文

原判決を破棄する。

被告人を禁錮一年に処する。

原審における未決勾留日数三〇日を右の刑に算入する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(当裁判所の判断)

控訴趣意第一点(事実誤設の主張)について

所論は要するに、被告人には過去のてんかん症状についての認識が欠如しており、事故発生についての予見もなかつたことは明かであるのに、その点について認識および予見ありとした原判決には、判決に影響を及ぼすべき事実の誤認があると主張するものである。

しかし、原判決挙示の証拠によれば、被告人にはかねてから突然意識に障害を来たしてもうろう状態に陥るてんかん発作の持病があつて、原判示どおり過去六年ぐらいの間に六回この発作に見舞われたことがあり、そのうち二回は昭和四二年になつてからのものであることが明らかであり、ことにそのうち昭和三七年三月の発作については、医師高橋友一の証言によれば、本人が意識を回復した後、同医師から傷の手当を受けた際、医師が付添いの被告人の父に対し、被告人にはてんかんの疑があるから専門家の診察を受けなければならないと注意し、被告人もかたわらでそれを聞いていたことが認められ、又昭和三九年夏の発作についても、被告人の弟矢島智明、同母矢島ナツヨの証言を総合すれば、被告人が両手を上げて動かしながら、目を吊り上げ、口から泡を吹いてうめいているのを智明が目撃し、ナツヨを呼んでその旨告げ、ナツヨが智明から聞いたことを被告人に事後話したことが認められることなど考えると、原判決が被告人は「時を選ばず突発的にもうろう状態に陥るという精神の異常性が自分にあるということを少くとも本件犯行当時までには知つていたものと推定しなければならない」としたことをもつて決して失当とはいえない(この点に関する被告人の反対供述は措信できない。)。したがつて「将来思いがけないときに突発的にまた同じような発作が起るかも知れないということを予見すべき義務を被告人に求めることが法律上許されるところであり」、又被告人としては事故発生防止のため「かりそめにも道路上で自動車を運転するような行為は絶対にこれを差し控えなければならない業務上の注意義務があるものといわなければならない」。結局原判決には判決に影響を及ぼすべき事実の誤認はない。論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する)

(足立進 浅野豊秀 井上謙次郎)

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